閃光(水溶性)

発光したと思ったら、消える。思い浮かんだら、忘れる。
昔、私がこの目で見た光景だったか、いつか観た映画の中で流れていた映像だったかもわからない。
それらは青白く、ぼやけていた。
水で溶かした砂糖の甘ったるい匂いにつられて、蟻が長い列をなす。
あの子の輪郭はやわらかい光が縫う。けれど雨が滴る黒髪だけはくっきりと浮かびあがっていた。
化学薬品の香りを放ちながら濡れる黒髪はあの子の白い頬にはりついて、黒い瞳はじっと私を見つめている。
その瞳の中から、蟻の大群がいまいま飛び出してくるのではないか。
そんな恐怖が拭えなくて慌てて視線を落としてしまう。
上履きに油性ペンで書いた私の苗字が滲んでいる。
七月、夏休みを待ち焦がれ、影が色濃く世界に染みこんでいくさまを見ていた。
どこで何をしていても死んだ魚のような臭いは拭えない。